学部の選び方

これから受験を迎える高校生・浪人生、進振りを迎える東大教養学部生向けに、
賢い学部の選び方を書く。

1:学部は将来どの仕事につきたいかで選べ

 現在大学にある主な学部を挙げる。法学部・経済学部・文学部・教育学部・工学部・理学部・ 農学部・薬学部・医学部。だいたいどこのこれでおそらく全部であろうか。 これを見て分かることは、原則として卒業生の将来の職業を想定して設定されてあるということである。

 はっきり言うと、「高校以前」と「大学以降」は、全く別の教育機関である。 高校までは「学問的素養を必要とする社会人に共通な基礎教養を作る場」であるが、 大学以降は「特定の職業に必要な専門職を身につける場」である。 だからこそ、どの職業にするかをある程度明確にした上で学部は選ぶべきである。 文系理系に拘る必要はない。数学の苦手な人間が理系の医学部に行くなど、 正直何の問題もない。

 ただし、文学部と理学部は避けた方がよい。本気で学者になりたい、あるいは高校・中学の 教員志望であるなら行ってもいいが、これら以外の可能性が高い場合は避けるべきである。 ただし、僧侶になりたい人が東大のインド哲学仏教学専修に進むことに限っては、全く問題ない。

2:学者になることは100%不可能と考えよ

 はっきり言うと、現在の社会体制の下で学者になろうとするのは極めて無謀である。 学者になるには、大学を卒業し、大学院で博士号を取った後、数年のポスドクを経て どっかの大学で助教に採用され、准教授・教授と上がっていくことになる。 しかし現実はというと、このようにストレートになれるかというと、 そんなことはない。本気で学者を目指すなら、東大や京大の場合おそらく1/3程度の確率で 学者になれるとは思うが、残り2/3の確率で学者になるのは無理である。 もちろん他の大学ならこれより厳しい。学部卒・修士卒あたりで諦めるなら道はあるが、 博士まで行くと就職は非常に厳しい。高校教員・塾講師といった道があるが、 それ以外を目指すには数多くの不利が付き纏う。

 余談であるが、このように厳しい背景には、文部省の失策がある。 学問の研究を活発化させるために、「ポスドク一万人計画」といって、 大学院生やポスドクを大量に増やした。一方、大学のポストは増やさず、 企業の受け入れも積極的でなかったため、学者を目指すには路頭に迷うリスクが 極めて大きいものとなった。というより、正直官僚は当てにならない。 官僚は、取るに足らない給料で毎日早朝から深夜まで長時間労働をしている。 さらにマスコミや政治家が、その実情を知らずに徹底的に官僚を叩くから、 今後も官僚は奴隷に近付く一方である。そんな「身を削って苦労する割に大した報酬もない」官僚に、 頭を回転させろというのがそもそも無理な話である。

 学問の研究というのは、日本社会にとって極めて重要である。 近年になって、実学に限ってはその重要性を官僚も知るようになった。 しかし、研究者は人間であって使い捨ての奴隷ではないということををわかっている官僚は少ない。 というより、薄給激務のせいで考えられないと言った方が妥当だろうが。 しかも、学問の重要性を「短期的な利益を産む手段の一つ」と認識しているに過ぎない。 それ故、理学文学など基礎学問は、冷遇しながらも非正規雇用を増やすという 矛盾に満ちた方針に苦しめられている。 とにかく、「株の配当+不動産収入+銀行口座の利子+身内からのお情けだけで生きていける人」 「教員免許を取って、大学に残れなかったら教員になるつもりでいる人」 「自分がどうなろうとも、国と学問の発展のために身も心も捧げたい人」以外は、 学者になることは100%諦めた方がよい。

誤った進路選択例1:自分は数学が得意で好きだから理学部数学科に行く

 ここで書いた内容は、「理科が得意だから理学部に行きたい人」 「国語英語社会が得意だから文学部に行きたい人」にも当てはまる症例であるから、 数学など関係ないという人も、「数学」を自分の得意な科目に置き換えて読んでほしい。

 まず、学者を目指すこと自体が人生の賭けである。 努力してもなれない可能性の高いのが「学者」という職業である。 諦める方が身のため。数学の発展こそが日本の学問の底力となって 長期的に見たら国の発展のために役立つことは否定しないが、 だからといって自分の人生を犠牲にすることはない。勿論犠牲にしてもいいなら止めないが。 自分を犠牲にしてでも基礎学問を担う英雄が出てこなければならないのも確かである。

 はっきり言って、高校数学と大学数学は、名前が同じ「数学」なだけで 基本的に全く別の学問である。このことは数学のみに限らず、 殆どの科目にあてはまる(特に顕著なのは化学。大学の化学は、高校の化学よりはむしろ 物理の延長線上にある)。もちろん、大学数学は高校数学を基礎としており、 高校数学の素養も大いに生かされることは確かである。しかし、高校数学を基礎とする学問は 他にいくらでもある。理工系であれば殆どが該当するかもしれない。 学科によっては、数学科に進む以上に高校数学の素養が生かせるかもしれない。

 わざわざ理学部数学科に行かなくても、工学部や経済学部に 高校数学の能力が十分に生かせる学科がいくつもある。どちらにするかは、 工業系の職業につきたいか、金融系商業系の職業につきたいかで選んだら良い。 一般企業も官公庁も理学部生など必要としない。それが世の中である。

誤った進路選択例2:本音では医者になりたい。でも数学が苦手だから文系に行く

 医者になりたいのであれば、大学のランクを下げてでも医学部に行くべきだ。 「血を見るのが怖い」「生物学が好きになれない」というなら諦めるべきだが、 「数学が苦手」なのは入試で苦労するだけで、さほど問題はない。

 医学は「理系」であるから、医学部の入試において数学の比重は大きい。 多くの大学で、理工系並の比重がある上に入試そのものが狭き門である。 しかし、大学に入ってしまえばさほど問題のあることでもない。 勿論、医学でも数学が全く要らないなんてことはない。しかし、文系の諸学問に比べて 特別数学の比重が大きいわけではない(このことから、医学は文系に分類すべきという 主張をする人もいる)。特に経済学に比べたらはるかに小さい。

 多くの高校生は、入試の科目を見て大学を選ぶ。そうした間違った風潮の中で、 各大学は競争に勝ち抜くために結局「文系=英語・国語・社会(・数学)」「理系= 英語・数学・理科(・国語)」で落ち着いた。これはただ単に学生獲得の戦略上 こうなっただけで、実際どの科目が重要かは個別に考えていく必要がある。

誤った進路選択例3:数学が嫌いだから文系の経済学部に行く

 先ほどとは逆の症例。経済学部の入試で数学の比重が小さいのは、 ただ単に学生獲得の戦略上そうなっただけのこと。数学0点でも合格できる 経済学部は多いが、入ってからは理工系並に数学が重要となる。 というより、数学が嫌いなら金の勘定を扱う職業自体はある程度諦めた方が良い。