よく、「理系は文系より就活は楽」とか「理系は学部卒より修士卒の方が就職有利」という 話を聞かないでもない。これらは、理系一般の話ではなく、全て工学部の話だと思ってよい。 少なくとも、基礎学問の中の基礎学問である数学の世界に当てはまる話ではない。
数学科の場合、就職に関して一番近いのは文学部だと思った方がよい。 応用寄りか基礎寄りかという尺度で見た場合、あからさまに文学部が近いし、 専攻が直接実用に役立たない点でも近い。
はっきり言って、数学を生かせる職場などない。大学の教養程度の数学なら 数多くの職場で重要になるが、その程度なら理工系&勉強熱心な経済系だと十分に慣れているし、 医薬農系でも一度は学習している。彼らに比べて不利なことは認識すべきであろう。
数学科の就職先は、金融や保険が主流になっている。しかし、金融でも保険でも、 結局のところ大学の教養程度の数学が分かっていれば十分と考えていて、 理工系が数人入ってくれば十分的なスタンスである。数学科が特に欲しいなどとは全く思っていない。
数学は完全に個人行動の場。一方、社会は例外なく集団行動の場。この隔たりは大きい。 で、採用側は何を見るかというと、集団行動の経験が豊富で、集団行動に適応できる能力があるかどうかを見る。 この点では、集団行動の要求される実験系に比べて、数学出身の場合大きく不利になる。 実際には集団行動に適応できるとしても、採用側がそこまで見抜けるはずがない。
しかし、集団行動の経験があると、少し話を誇張するだけで集団行動に適応できるとみなしてくれる。 そのためにはバイトやサークルに精を出すのはやむを得ない。ただサークルの場合、 学問系サークルのような個人行動の集合体では辛い。集団でないと100%成立しないような 活動をやるサークルに入るか、バイトに精を出すかにすべきである。
バイトに精を出すことに警戒感を示す人は多いけど、バイトに精を出さない人間は 就職しにくいのがこの世の現状。長い目で見たら自分のためにならないかもしれないが、 この狂った日本社会は、真面目に学問をやる人間よりバイトに精を出した人間を評価するから、仕方ない。
「理系は学部卒より修士卒の方が就職有利」というのは、あくまで工学部の話。 理学系に当てはまる話ではない。
理系の修士を欲しがる会社は多い。何故わざわざ年寄りの院生を取るかというと、 専門がある程度直接職に結びつくため、少しはその学問を究めることが 2年遅れて入社することのデメリットを補うと考えるからである。 しかし、数学に関しては職に結びつくなどあり得ない。結局、2年遅れの入社の デメリットを補うなどまずあり得ない。
あと、修士を欲しがる会社は、基本的に学校推薦で取る。 大学でやってきたことを重視したいというのだから、それがある種当然ではある。 しかし逆の言い方をすると、自由応募ではそんなことを殆ど考慮されない。 結局、2年遅れて社会に出ることのデメリットだけが残る。 特に、金融・保険業界で推薦使える企業などない。こういうところは、 院生を何ら必要としていない。
自分の大学で、どういったところに推薦が使えるか、 それを見て修士に行くべきかどうかを判断してほしい。 推薦の使えない企業は、圧倒的に学部卒が有利と思って間違いない。 推薦の使える企業だと、場合によっては修士の方が有利かもしれないが。 まあ実際は、数学科で推薦の使える企業は結構数が少ないだろう。
結局、普通は就職を考えるなら学部卒で就職するべきである。 特に金融・保険業界など、本来の意味での文系企業に行きたいなら 修士出ることは損失以上の何物でもない。
他の理系とは違い、数学科は金融・保険に就職するのが一般的とされる。 確かに、人数で見ても金融・保険が一番多い。
しかし、金融・保険の本音は、理工系が数人いればそれで十分という考えである。 しかも、大学教養程度で十分という考えなので、特に数学科出身に拘っているわけではない。 その「数人」の需要に対して、理工系学生の供給は極めて過多である。 金融・保険の、金融テクノロジー・アクチュアリーなどの数理系職に入るには、 理工系として最低限度の数学以上に、普通に文系就職できるだけの資質が確実に必要となる。
で、考えてみてほしい。自分が今まで、金融あるいは保険に興味があったかどうかを。 もし興味があったなら、金融や保険は進路として十分に考えてみていいと思う。 でももしあまり興味がなかったら、さっさと身を引くべきである。 人より数倍数学ができたとしても、今名門大学に在籍しているとしても、 結局金融や保険にあまり関心のなかった人間は落ちる。
さらに言うと、学生の立場で、金融・保険の仕事がどんなものか分かるはずがない。 自分が向いているかどうか、はっきり言って分かるはずがない。向こうの人事に任すしかない。 もし向いてないとしたら、何社も受けたところで結局落ちる。 例え金融・保険に興味があるとしても、幅広く色んな業種を周るべきである。